VOL.32

2025.03.14 FRI.

songdream KOBE

六森
ROKUMORI

「衣」と「食」だけでなく、もっと「住」にもじぶんらしさを出せば暮らしはどんどん楽しくなる。住むひとにとって、最適でこころをぜい沢にする空間を提案する。家具やインテリア雑貨を通した、じぶんらしい空間づくりのお手伝いだけにとどまらず、リフォームやリノベーションまで手掛けている。

神戸ファッションマート1F

songdream KOBE

今日の「いままで最高難度のご注文」について、よほど思い出に残っていたのだろう。堰を切ったように話し出した稲田さん。つのる思いが溢れすぎて、話がダムの決壊のようにドバーッとでてくる。事前に資料をいただいていたものの、こちらは話についていけない。すると、アタマが混乱しているところに、うまい具合にお客さまが来られて、稲田さんが中座された。インタビューが中断されたこの隙に、こちらもアタマを整理して、再開されたインタビューの中で話をだんだんと理解することができた。最難関のお客さまが第一号のお客さまだった。リフォームをはじめたいと考えていたところに出会った個性的なお客さま。アイデアを出すたびに、この前はそう言ったけど…と、話がそのたびに変わっていく手強い方。でも、なんとかリフォームを成就した結果、そのお客さまにはとても鍛えられ、いまも良い関係が続いているというお話だった。

代表取締役 稲田恵美さん

アパレル会社にて店長と新入社員指導員を約10年。海洋建築専門会社にて経理責任者を約10年。豆雑穀卸し会社にて経理責任者を約8年。家具製造会社ティシュラー夙川店にて責任者を約3年。数々の重責を担った後、ティシュラー製品の販売代理店として独立。令和元年に六森をOPEN。現在に至る。

第一号のご依頼が、最高難度の案件だった。

 リフォームの案件の、いちばん最初のお客さまが持ち込んできたのが、じつは最高難度のご注文だった。というか、そのお客さまのおかげで、稲田さんは念願のリフォーム事業に踏み出すことができたということになる。以前の「六森」さんでは、お店の中でキッチンやリビングなど、リフォームのモデルケースを見せていた。そこへフラっと入ってきたのが、件のお客さま。そしてそのときの話の流れの中で、稲田さんは「将来はリフォームもやりたい」と、そのお客さまに伝えていた。なんと稲田さんが言っていたことを覚えていて、その2年くらい後に「そろそろリフォームができるようになった?」と、お店を再訪されたというのだ。
 西宮市にあるその方のマンションを訪問したらメチャクチャ広いスペースだった。お仕事はクリエイティブ関係で、いろんなことをプロデュースするようなひとだった。おもに仕事で使うスペースだったので、クリエイティブなアイデアが浮かぶようにいろいろな工夫を求められた。打ち合わせでは、「僕のイメージは、これかな」と、自ら3Dプリンターでつくった模型を持って来られる。そして、「ここを、こうしたいが、どうすれば良い?」「ほかに良いアイデアはない?」と、いろいろと相談を持ちかけていただいた。その度に、宿題を出された気分で提案をすると、「この前の僕と、今日の僕は違う」「考え方は、どんどん変わるものですよね」と、いうようなひとだった。でも、それが面白くて、持っている知識や経験からさまざまな提案をしていった。その繰り返しが、とても楽しかった。負けたくないという気持ちもあった。
たとえばその方は、仕事のイメージを膨らませるために、模型や人形などいろんなものをたくさん持っていた。それらをきれいに片付けるような提案をすると、「片付けたらあかん。それらを見ながらでないとイメージがわかない」と、言われた。結果、スケルトンのケースにした。他にも、本棚がホワイトボードになるような仕掛けも提案した。細部まですごくこだわった。また、予算をプラスして床も無垢の板で貼りかえてほしいとなった。新築物件のままを買ったような新しいマンションだったのに、床を全面貼り替えた。
本当に注文が細かいし、コロコロ変わるし、大変なお客様でした。リフォームにしては、相談から完成まで1年くらいかかった。しかし、とても勉強になって、いまは楽しい思い出になっている。現在では世間話が出来る程の関係となり、気が向けば電話がかかってくるそうだ。「用事はないけどね。最近は、なにをしているの?」みたいな感じだそうだ。きっと、その方も稲田さんを頼りにしていて、稲田さんと話すことで、なにかしらのインスパイアが得られるのだろう。

あの経験があったから、お客さま目線の大切さを学んだ。

稲田さんは言う。「一般的な工務店さんだったら、お手あげですわ。いちばん変わったお客さまで、大変だったけど、学ぶことも多かったですね。その仕事の過程で、あれもできるこれもできるよりも、ここにはこれですと言ってあげることこそ、“お客さま目線”だとわかった気がします。値段的な高い安いよりも、アイデアの選択肢を増やしてあげること。そこに六森らしさをプラスすることですね。それが、お客さま目線の本質でしょうね。うちでリフォームを相談するひとは、この店の雰囲気が好きと思って、店に入ってくるひとですからね。相手の方は初めての経験の方が多いですから、メリット・デメリットの両方をキチンと説明してあげるのが大事だと考えています」。これからも、お店の中での稲田さんとのふとした会話から、リフォームがはじまっていく、“リフォームの相談ができるcafe”として進化を続けそうだ。なにせ、最高難度のご注文からスタートした事業ですからねえ。
 住宅への考え方も変わってきた。最近ここでお茶を飲みながらお客さまと話していると、家族の変化や高齢化からくるリフォームへの要求が増えているそうだ。それも時代だろう。だから、皆さんの悩みが共通。わたしもマンションを売却して、戸建に移り住んだから、皆さんの悩みが理解できる。経験を元にして、お客さまの目線で対応できるのが強みになってきた。若いリフォームプランナーとは違う、わたしの経験値がうちの価値になっている。リフォーム、建て替えなどの需要や希望の傾向も変わってきた。たとえば年をとってからのリフォームなら、2階建ての2階はそのままにしておいて、1階だけを重点的にリフォームしたらどうかというような提案ができるようになった。これからが、ますますおもしろくなる気がしている。そんな話で締めくくっていただきました。

手間と思い出が詰まった模型を見せていただきながら、提案した細かなアイデアを披露してもらった。夢みたいな面白いアイデアが満載だった。これを見ると、稲田さんとお客さまがアイデアのキャッチボールを楽しんだことがよく理解できる。じぶんがこれまでの仕事や生活の中で経験した「なるほど」や「こうあれば」をじぶんなりに消化して提案している。第1号だけに、不安の要素が強かっただろう。なかなか大変な苦労をしたぶん、じぶんの方向性も見えて、自信もつかんだ案件だったと想像できる。

インタビュー&ライティング 田中有史

 

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