VOL.25
2025.2.17.MON.
オリジナルのフレームに額装されたアートが数多く飾られた店内。ここに佇んでると、まるでギャラリーに居るかのような気分になる。壁にはさまざまな種類や色のフレームサンプルがディスプレイされ、頑丈そうなポスターケースには、この会社の専属アーティストによるアート作品が多数収納されている。今回お聞きするのは「一生に何度もない買い物」というお話だ。マネージャーでありデザイナーでもある香川さん曰く「当社のアートは家を購入したり、改装したときに、買われるケースが多いんです。そういう意味で、そのご家族にとっては、一生に何度もない買い物と言えます。」
それでは、そんな中でもとっておきの珍しい例をお話ください。ということで、話がはじまった。
取締役・デザイナー 香川世奈 さん
アートの大学を卒業した後、アートに関係した仕事に就きたかった香川さん。じぶんの手でアート作品をつくっていたが、お客さまのご希望に自身の感性を自由にプラスするような仕事がしたくて、現在の会社に入社した。楽しい仕事ではあるが苦労や手間も多くて大変なぶん、やりがいを感じる毎日だから充実して楽しいと言う。
アートを先に決めてから、インテリアを決めたい。
ある日、新築の戸建てを購入されたというご家族が来店された。両親と女の子の3人連れだった。住宅会社の専属コーディネーターとともに来店された。そのご家族がおっしゃるには、「まだ壁紙の色もなにも決めていないけど、この家のインテリアはアートを先に決めてから決めたい」ということだった。
フツーは逆でインテリアが先にありきでアートを決める事が大半。インテリアの色や素材があり、そこに似合うアートを購入するというケースが多い。ところが、このご家族の場合は真逆だったわけだ。「一生に何度もない買い物」どころか、「一生に何度もないご要望」だった。

まず、展示してあった専属作家ユニットAUEの「preghiera(プレギエーラ)祈り」という作品をとても気にいったということですが、そこからが変わっていた。作品をそのまま購入するのではなく、色を変更したいという流れになった。しかも、色の決め方が、香川さんにとって“一生に何度もない”経験だった。なんと驚いたことに、色を決定するのはご両親ではなく小さな女の子だった。
「何色がいい?」と聞くと、女の子は色見本帳を見ながら、その中からパステルブルーを指した。ご両親が「それにしよう!」と、即おっしゃり、パステルブルーで制作することになったというからビックリだ。この絵は100号のFサイズととても大きなもので長辺が162cm、短辺が130.3cmもある。まさに、玄関を飾るにふさわしいもの。とうぜん、それなりのお値段がする。それを、小さな女の子が好きな色で、高価なアートの色を決めさせるなんて、香川さんにとってもなかなかできない経験だった。
子どもさんが決めたことで、このアートが家族の中で占める位置づけも変わるだろう。このアートにもう一つのストーリーが加わることになった。このことがきっかけで香川さんは、家族と家とアートの関係を改めて考えさせられたそうだ。
そして、このエピソードには後日談がある。作品ができあがり、引き取りの当日にも家族一緒に来られた。そのとき女の子はなんと大好きなパステルブルーのワンピースを着て来た。そして、家族ともども大満足の笑顔で帰っていかれたとのことでした。この日の衣装をだれが、どうやって決めたのか、それはわからない。しかし、パステルブルーがこの家族のシンボルカラーになった瞬間ではないでしょうか。

最近人気のアルミ箔の作品

新築マンションのエントランスの壁面に飾られた作品
お客さまにとっての、人生の特別な買い物。
香川さんは言う。「お客さまに喜んでいただき、大きな笑顔が返ってくることに、この仕事のやりがいをいつも感じている」と。ほかにもいくつかの面白いエピソードを語っていただいたが、どのエピソードにも共通なのは、お客様に喜んでいただくためには、アートのどこかにお客さまの意向が入っていること。
“アートとは、お客さまとの出会いをつくり、お客さまとのつながりをつくりあげていくもの”だということではないかと思った。だから、アートはお客さまにとって「人生の特別な買い物」になる。「お客さまと一緒に喜べることが、わたしの仕事の最高の時間です」と、香川さんが結んでくれた。
今日は「アートと人生」ということを考えさせられる、奥の深い取材だった。
ワタシもアートが好きで何点かコレクションしているが、自宅に帰ると、お気に入りのアートが出迎えてくれる。ホッとする。顔がほころぶ。シアワセを実感する。毎日、毎日出迎えてもらっても、はじめて出会った瞬間の新鮮さが薄れることはない。
「お客さまに喜んでいただき、大きな笑顔が返ってくることが、この仕事の醍醐味だ」と言う香川さんの言葉に賛同したい。
インタビュー&ライティング 田中有史