VOL.21

2024.12.19 THU.

絨毯ギャラリー

絨毯ギャラリー

何度も現地を訪れ、直接工房から買い付けた膨大なペルシア絨毯のコレクションを多数展示している。展示や商談のスペースのほかに、日ごろ目にすることが少ない貴重なアンティーク絨毯を鑑賞できる「シルクロード絨毯ミュージアム」、イベントや講演会など多目的に使える「サロン」なども有している。

神戸ファッションマート3F

神戸ファッションマート店

神戸ファッションマートの中にいったい幾つの展示スペースを持っているのだろう。たしかに、絨毯はサイズも大きいものだし、小さく畳むわけにいかないから嵩むだろうけど。展示室、ギャラリー、サロン…一つひとつのルームも広いが、その総面積たるや如何ばかりか。そして、家賃は(?)と、いらぬ心配をしたくなる(笑)。各スペースのそこかしこに置かれた絨毯の数は、およそ4000〜5000枚はあるとか!目に映る絨毯の数と広いスペースに圧倒される。
さて、本日、大熊社長にお話しいただくテーマは「一生に何度もない買い物」。物が物だけに、凄い国宝級のモノが登場するのではないかと、ドキドキしながら取材がはじまった。

代表取締役 大熊直子さん

父である先代の後を継いで現職となった2代目社長。見るからにアクティブでスマートな女性である。テキパキとスタッフに指示を出し、いつも動いている印象。自ら買い付けのために、何度もイランの倉庫(生産した絨毯を集めた集積所)へ出かけて現地との関係を築いている。

手織りの絨毯そのものが、一生に何度もない買い物です。

アリャリャ…。「そのもの」だなんて、いきなり断言されてしまった(笑)。まさに、そのとおりかもしれませんね。お宝物登場を想像したこちらが浅はかでした。このひと言で、本日のインタビューは終了!というわけにはいかないので、もう少しお話を伺ってみた。
手織り絨毯全般が「一生に何度もない買い物」といえるのは、すべて手織りで一点ものであること。一生使える(ものによっては3世代に渡って使える)こと。それだけに、お値段もそれなりにすることなどをあげていただいた。すべて1点ものであることから、たとえばこのお店の中の何千もの展示商品の中から選ぶということが、すでに一生に何度もない運命の出会いですもんね。大熊社長によると「高級ですけど、手織り絨毯を購入して、失敗した〜」という声を聞いたことがないそうだ。価格も高いし、それだけ真剣に選ぶからでしょうね。いいえ、親身になって一緒に選んであげるからでしょう!押しは強いけど、明るく楽しい接客を心がけているからだと、社長はおっしゃいました(笑)。

さらに一生物を裏付けるこんな話も伺った。なんと、現地から専門の職人を呼んで“クリーニングサービス”も行っているというのだ。以前に親が買ったものを譲り受けたけど汚れがあるのでクリーニングしたいという需要にこたえている。その際、タバコの火で焼いた箇所や、端っこの傷みなどの修理のほか、絨毯のまわりの房の修理もできるそうだ。さすが、一生のお付き合いだけにケアも万全だ。

いやー、見事な戦略やわ〜。負けた。

たいがいのお客さまは購入の際には迷って数枚までに絞るが、そこから先はなかなか絞れないらしい。かつて何枚かには絞れたけど、そこからすごく悩まれたお客さまがいた。いちばん高いものがいちばんのお気に入りだったけど、さすがに値段が…と、断念された。そこで、大熊社長は「実際にお家で敷いてみて比べてから決めたらどうですか?」と、絨毯のフィッティングを提案した。そのときに、そのお客さまが断念したはずの“いちばん高いもの”も一緒に持って行った。すべてのものを敷いてみると、サイズ感も空間の雰囲気にも、見事にその“いちばん高いもの”がバッチリだったとか。

さすがにお客さまも、一度は諦めていたのに、またまた欲しい気持ちに火がついて、その一枚に決められたそうだ。そのときのひと言が「いやー、見事な戦略やわ〜。負けた」というものだったとか。大熊社長にしたら、一生ものだけにやはり、いちばん気に入ったものを諦めて欲しくないという一心だった。そのお客さまとはいまでも良い関係で、定期的に来店され別の部屋のものも購入されたそうだ。お客さまに喜んでいただけるのは、商売を越えて本当にうれしいことですね。

あくまでも買えるならと言う前提ですが、値札を見ないでいちばん気に入ったものを買うのがホントウは理想ですね。かくいうワタクシもいつもそういうふうにしたいと思っているのですが、現実には予算という、越えに越えられぬ高い壁がある(笑)。そんなときに、うまくその気にさせてくれて、本当に良いものを選んでくれるプロと出会いたいものです。商品(もの)も、接客してくれるひとも、一生というスパンで繋がり合える関係でありたいと思った取材でした。

インタビュー&ライティング 田中有史

 

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